2016/09/21

解除と帰還 自然災害と異なる支援策を/福島

2016年9月21日 朝日新聞
http://www.asahi.com/area/fukushima/articles/MTW20160921071560001.html 

●福島大学教授 今井 照さん

政府は、原発事故被災者への支援を自然災害への対応と同じ枠組みでやってきた。そこに根本的な問題があります。本来、時間をかけて取り組むべき被災地の復興を、拙速な避難指示解除で「加速化」させ、逆に喫緊の課題である被災者の生活再建策を打ち切ろうとしています。原発事故は自然災害とは異なり、事故を起こした原因者が存在します。また完全な収束までには人類史的な長さの時間を必要とします。こういうことを見て見ぬふりをしてはならない。

●県外移設に不信
南相馬市をはじめ避難指示が解除された区域では多くの住民が帰還していません。仮設住宅でお話を聞いて、その理由を学生たちがまとめたところでは、(1)自宅が住める状態に再建できていない(2)低線量被曝(ひばく)への不安や社会的インフラが不十分など環境が整っていない(3)福島第一原発のリスクが残っている、の3点でした。

この夏も台風が福島第一原発を直撃しそうで不安でした。現場の人たちは懸命に対処していると思うので確率は低いでしょうが、一つ間違えればどんな事態になるかわからない、と多くの住民は不安を感じています。そもそも絶対安全と言われていたのに原発事故が起きたのですから当然です。

朝日新聞との共同調査では、中間貯蔵施設を30年で県外移設という政府の約束を信じている人はわずか1~2%です。政府はできない約束をしていると不信感をもっているのです。こんな状態で中間貯蔵施設の建設が進むはずがありません。

もちろん自宅に帰りたい人もいますので、避難指示解除そのものを否定するわけではありません。しかし科学的な知見が確定していない以上、被災者の選択に応じた支援を続けるべきです。避難指示解除と賠償や支援の打ち切りをセットにするべきではありません。このことは超党派で成立した子ども被災者支援法に書いてあるとおりです。自宅に戻る人には特例宿泊などで対応できます。

●生活再建が重要

一番重要なのは被災者の生活再建です。特に住宅支援が打ち切られると生活破綻(は・たん)に直結します。事故の被害者なのにおかしいでしょう。避難指示が解除されると「帰りたいけれど帰れない」人たちは「自主避難」者扱いになるおそれがあるので、現在、福島県庁が進めている「自主避難」者への住宅支援打ち切りはひとごとではありません。現に避難指示が出ていた地域の一部では災害公営住宅への応募資格がないなどの問題が出ています。賠償についても、一人ひとりの事情に応じて、現実的に生活再建ができるように、原陪審の指揮のもと、世帯ごとに担当者を決めてきめ細く対応するべきです。

避難指示解除が進んでも、「帰りたいけれど帰れない」人が何万という単位で残るのは確実です。新しい考え方に基づいた法制度が必要です。原発避難者特例法だけではなく、出身自治体の復興に参加する法的な権利や義務を付与するべきです。このまま進むと、自分たちの町がいままでとは全く違う姿になってしまいます。それは復興ではありません。


●福島大学教授 今井 照さん
53年生まれ。東京都の大田区役所職員などを経て現職。専門は自治体政策。朝日新聞社と協力して原発事故避難者から5回にわたり実態調査を実施。 

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