2016/02/21

[東電に賠償命令] 救済の追い風にしたい

2016年2月21日 南日本新聞
http://373news.com/_column/syasetu.php?ym=201602&storyid=73338

東京電力福島第1原発事故による自主避難者救済の追い風となる重要な司法判断である。

京都地裁は、福島県から京都市内に自主避難した40代の夫婦と子どもが、東電に損害賠償を求めた訴訟の判決で、計約3000万円の支払いを命じた。

自主避難者に対する東電の賠償責任が認められた判決は初めてとみられる。

東電側は、自主避難者の賠償は国の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)の指針の範囲に限られると主張した。しかし、判決は「指針の対象外でも個別具体的な被害の事情に応じて損害を認めることはあり得る」と退けた。

実態に即した賠償の必要性を認めたもので、被害者に寄り添った判断といえよう。国は判決を踏まえ、実情に合った賠償となるよう、指針を見直すべきだ。

判決によると、夫は会社を経営していたが、原発事故による自主避難後に不眠症やうつ病になり、働けなくなった。

裁判長は、夫の発症は原発事故が主な原因の一つと認定し、夫婦それぞれが求めていた就労不能による損害も、事故との因果関係を認めた。

福島県によると、昨年10月末時点で避難区域外から県内外への自主避難者は推計で約1万8000人に上る。放射線への不安を抱き、転居や転職を繰り返すなどの苦労は、自主避難であっても決して小さくない。

しかし、原賠審の指針では避難指示などの対象地域と自主避難者では賠償額が大きく異なる。

今回の裁判は、賠償額に納得できず、原子力損害賠償紛争解決センターの裁判外紛争解決手続き(ADR)で示された賠償額も容認できないとして起こされた。

判決で裁判長は「指針は損害の項目や範囲を一定程度類型化したものにすぎない」と指摘して、ADRの提示した約1100万円を上回る額を示した。

原発事故の賠償訴訟は全国で係争中である。指針を超える認定は、大いに後押しになったのではないか。

国は原発事故時の賠償を定める「原子力損害賠償法」の改正を検討している。

昨年、専門部会で意見を求められた福島県の鈴木正晃副知事は「被害者の立場では、最後の最後まで実態にあった賠償をしてもらうことに尽きる」と述べた。当然の主張である。

事故から間もなく5年がたつ。避難者が、精神的にも経済的にも安定できるような仕組み作りが求められる。

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