2015/05/30

「帰還 押しつけ」 憤る被災者 除染途上…高線量も


2015年5月30日 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015053002000141.html


「この道は除染されたが溝や周囲の原野は除染されず放射線量は高い」と
農道わきの溝を指さす菅野秀一さん(手前)=福島県南相馬市で

 


















福島第一原発事故による福島県の「避難指示解除準備区域」と「居住制限区域」を解除するよう求める与党の提言に、避難者らは「帰還の押しつけになる」と不安を隠さない。専門家は「避難継続と帰還のどちらの選択も支援する政策が必要だ」と訴える。

■福島・南相馬
 
「避難勧奨は解除された。でも子連れで帰ってきたのは一軒しかねえんだ」
 
福島県南相馬市原町区高倉地区の菅野(かんの)秀一区長(74)はため息をつく。農道わきの溝は除染がまだ。除染した家の玄関先や庭でも、雨どいの近くなどで線量が再び上がっている。未除染の近くの山や原野から、木の葉や土ぼこりが風で飛んでくる。それが雨で流れて集まる場所だという。「そんな場所が生活圏のあちこちにある。これから避難指示が解除される区域でも同じことは必ず起きる」
 
南相馬市では、市北西部で局所的に線量が高くなった「特定避難勧奨地点」の指定が昨年末に解除された。百四十二地点で百五十二世帯が対象だった。東電からの一人月十万円の慰謝料も三月に打ち切られた。「解除の先例モデル」だが、世帯の六割は避難先から今も戻らないという。
 
国が解除に踏み切った根拠は、昨夏の調査結果だ。「指定基準の年間被ばく線量二〇ミリシーベルト(空間線量毎時三・八マイクロシーベルト相当)を下回った」と説明するが、測ったのは各世帯で玄関先と庭の二カ所だけだった。ところが菅野さんによると、国が判断対象としなかった雨どいの出口や排水溝の周りは今でも毎時五マイクロシーベルトを超える。配水池の周辺でも一〇マイクロシーベルトを上回るという。
 
「そもそも解除基準の年間被ばく二〇ミリシーベルトは、原発作業員の上限(五年間で一〇〇ミリシーベルト)に匹敵し高すぎる。国は先に結論ありきで帰還を押しつけている」

■首都圏
 
与党の提言は、東電による一人十万円の慰謝料も一八年三月に打ち切る内容だ。浪江町の居住制限区域から、東京都江東区の国家公務員宿舎「東雲(しののめ)住宅」に夫(86)と避難する女性(80)は「帰りたくても帰れない。ここに住めず、慰謝料もなくなったら困る」と心配する。
 
収入は年金だけで、二人で月二十万円の慰謝料を生活費に充てる。四月に自宅に一時帰宅すると、柱はネズミにかじられ、雨漏りしていた。玄関前の空間線量も毎時四・一マイクロシーベルトで、避難指示基準を超えていた。再び暮らすのが難しいと覚悟し、国の事業で自宅を解体することに決めている。
 
だが避難指示が解除されれば自主避難の扱いとなるので、今は無償で暮らす東雲住宅からも出て行かなければならない可能性もある。「日々の生活ができなくなるかも」と漏らした。



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