2014/12/11

がん社会を診る過剰診断、韓国で問題に 中川恵一

 韓国で原発の近辺で甲状腺がんが増えているとして訴訟になり、原発側に賠償命令が出された件は、先日アップしました。
原発周辺住民が甲状腺がん発症、原発側に賠償命令/韓国
原発周辺地域住民285人、甲状腺ガン被害共同訴訟に参加
 たとえ死亡率が減っていないとしても、がんかどうかの検診を受けることで治療の検討に入ることができます。まして、韓国での甲状腺がんは、原発由来だとして大きな問題になっているわけですから、原因を追及するためにも検診・調査が求められたわけです。
 この事態を、また福島県の県民健康調査の継続についての意見をけん制するかのような内容はいかがなものでしょうか。


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 がんで命を落とさないためには、がんを防ぐ生活習慣とがん検診の二段構えが大切です。ただ、すべてのがんで検診を受けるべきだというわけではありませんので、注意が必要です。
 前回も触れましたが、がん検診の目的はがんによる死亡数を減らすことです。がんを早期に発見すること自体ではありません。一般の人には、どんながんでも放置すれば進行して命を脅かすといった誤解があります。しかし、見つかっても大きくならない、あるいは自然に消滅するがんもあるのです。
 こうしたがんを診断することはかえって不利益になりますので、過剰診断と呼ばれています。これが国レベルで問題となっているのが、韓国での甲状腺がん検診です。日本を含む先進国の女性のがんで一番多いのは乳がんですが、韓国女性の場合は甲状腺がんです。乳がんの2倍以上に達し、さらに増え続けています。
 韓国のがん対策は10年ほど前から急ピッチで進み、がん検診の受診率も約6割に達するなど、一種の検診ブームが起きています。韓国では乳がん検診を、専用のエックス線検査のマンモグラフィーではなく、超音波で実施する医療機関が増えました。甲状腺がんも超音波で検査するため、2つのがん検診をセットにするケースも増えました。
 甲状腺がんは、微小なものまで含めると、ほとんどの高齢者が持っているといわれます。交通事故で亡くなった人を解剖して調べた米国のデータでも、60代の全員に甲状腺がんが見つかっています。甲状腺がんで亡くなる人も確かにいますが、多くの場合は、命に関わっていないということです。
 実際、検診によって甲状腺がんと診断される人が急増している韓国でも、このがんで亡くなる人の数は減っているわけではありません。一方、手術は後遺症を伴う例がありますし、甲状腺ホルモンを生涯飲み続けることにもなりますから、マイナスの面も少なくありません。韓国では、あまりの急増を受け、民間のがん保険の給付対象から甲状腺がんが除外されています。
 検診は、がんによる死亡を防ぐことのできる大腸、子宮頸(けい)部、乳房、肺、胃などを対象に、定期的に受けることが大事です。

(東京大学病院准教授)

2014/12/7
日本経済新聞 朝刊
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO80591270W4A201C1MZ4000/


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